一般的には次のような事項が課題として挙げられます
1:遺産の多少に拘わらず、分割の仕方に不満が生じると骨肉の争いを 呼ぶことになります。遺産を遺す者は それを避けなければなりません。そのためには極力、皆が許容しうる配分ができるよう、財産の形態を調整してくとともに、遺言により それを指示しておきます
2:相続税を試算し、遺族に負担が発生する可能性がある場合、 対策を講じておきたいものです。対策には(1)課税評価額の減額と(2)納税資金の準備があります。 具体策として (1)については、贈与税制もにらみながらの生前贈与や、評価額を下げる優遇制度の利用、自社株の株価調整など、 (2)については、売却による現金化、生保の活用などが考えられます
3:出来るだけ早目に継承者を決め、本人及び周囲の同意を得ておくとともに、 後継者の教育、自社株の移行対策、業務の引継ぎを行っておきます
4:配偶者には相続税の優遇制度がありますが、二次相続のことも考慮しなければ なりません。また、配偶者の余生をまかなう生活費を遺すだけでは払拭しきれない不安もあります。それらを考慮し、自らに代わって、 その後の扶養を託せる段取りをしておきたいものです
5:地域や家族状況によっては問題となるケースもあるようです。早目の話し合いで了解を取り付けておく必要が あります
法律で定められた相続人の範囲とそれぞれの相続割合、更に配偶者と直系血族が持つ遺留分 (=最低限の分割 を受ける権利)について認識をしておく必要があります。遺言で指定する割合は法定相続割合に優先しますが、法定の割合とかけ離れた 割合で指定するときは、その根拠に合理性があり、各相続人の同意が得られやすいものとすべきでしょう
法的にも合理性を担保する考え方があります。特別受益者や寄与分権利者の考え方です。 特別受益者とは被相続人から 生前に結婚や生計の資金補助として贈与を受けていた者を言い、その贈与分も遺産に含めて分割し、特別受益者はその分割分から受けてい た贈与分を差し引いた残りを相続するという考え方です。寄与分権利者とは、被相続人名義の 財産が、明らかにその相続人の功績に より維持あるいは増加した場合に、その寄与分(維持・増加分)はその相続人が寄与分権利者として優先的に受け取り、その残りが 相続財産として分割される、という考え方です。実態としては、このほかにも分割割合に影響を与える合理的根拠はたくさん有り得ます
分割が難しい不動産等が遺産の大半を占めていたり、分散させたくない自社株を1相続人に遺したいとき などは偏った相続割合となる可能性があります。このような場合は生命保険金の形で他の相続人に遺したり、あるいは当該相続人に 代償分割の資金として保険金を受領させる方法などがあります。代償分割とは特定の相続人が多くの遺産を 取得し、その代償として自らの資産を他の相続人に支払うものです
これらは公平な分割のための手法ですが、これとは別に、自社株を一手に相続した者の相続税支払いの問題が ありました。そこで、平成21年度税制改正において中小企業のスムーズな事業継承に資するため、議決権株式の3分の2に達するまでの相続分 につき、80%の納税猶予が認められました。尚、生前贈与については同様の限度までの全額が猶予対象となりました
遺産として遺すのではなく、生前贈与によって分配を確定させてしまう方法も あります。税制を踏まえた計画的な贈与により、遺産を減らすとともに、推定相続人の生活支援、納税資金の移転、更には 財産値上がりのリスク回避効果も狙えます。 特に賃貸物件など、収益性のある資産の贈与はその効果が大きく、検討の価値があります。 同じ贈与者からの贈与が同一年に110万円を超えた場合には、その超過分に贈与税が課されます(暦年課税の贈与 )。ただし、定期贈与と みなされると総額に課税されることもあるので注意が必要です。また、相続時精算課税制度を利用した 場合、累計2500万円まで、その時点での課税は されず、超過分に一律20%の課税となります。ただし、相続が発生した場合、暦年課税の贈与は発生前3年以内のものが相続財産に加算 されるのに対し、相続時精算課税制度を利用した贈与は年限なく遡って加算され、税の精算がなされます。ただし、居住用不動産の配偶者 への贈与は、基礎控除額110万円とは別に2000万円までが非課税となり、且つ、相続発生時にも加算されません
生命保険金はみなし相続財産として相続税の課税対象となりますが、相続人数×500万円が 非課税となります。有効な制度ですが、遺産額・相続人数等によっては相続人の所得税対象となるような掛け方の方が税率の面で 有利となる場合もあります。その場合、保険料相当分を相続人へ贈与し、相続人が契約者となります
また、近年は若年世代への資産移行を促進すべく、直系尊属から子や孫への贈与について税制上優遇する制度が設定されているので、 これらを利用することで早めに資産を減らしながら、「分割問題」にも取り組むことができます
相続における課題については、出来る限り生前に対策を講じておきたいところですが、それが叶わない場合は 遺言により意思を遺族に託します。通常の遺言には方式の違いにより3種類があり、それぞれ長所・短所があります
意思が正確に伝わり、執行されるために留意しなければならない点があります
(自筆証書)遺言作成上の留意点